マンションを考えるヒント「二重床はメンテナンス性が高い」は本当？

「二重床はメンテナンス性が高い」という話を聞きますよね。

これは「二重床＝二重床マンション＝メンテナンス性が高い」という単純な話なのですが、はたして本当にそうなのでしょうか？
今回の話はその部分に関して書きたいと思います。

まず、よく耳にする「直床はコンクリートスラブに配管や配線類が打ち込まれているのでメンテが不可能。だから二重床は必須。」という話。
確かに二重床構造にすることで、二重床部分にある排水配管類へのメンテナンスが容易になるので、その点では二重床構造はメンテナンス性が高いと言えます。
しかし、だからと言って「二重床マンション」のメンテナンス性が「直床マンション」より高いかと言うと、決してそうではありません。
最初に言いますが、スラブ打込＋メンテ不能な排水系統を持つ直床マンションが作られていた時代は、とっくの昔に終わりました。
現在のマンションでは直床・二重床を問わず配線や給水を通せる二重天井が常識となり、直床でも排水管メンテが必要な水まわり部分には二重床を採用しているため、この部分のメンテナンス性に差はないのです。
＊補足：直床でも二重床でも躯体への配管、設備配線類の打ち込み箇所は必ず存在します。

■二重床自体は更新しにくい

「メンテナンス」を考えた時に、むしろ気になるのは二重床自体のメンテナンス性です。
メンテナンス性というよりも「更新のしやすさ」と言った方が正確ですね。

直床であればフローリングとクッションが一体なので、フローリング貼替えの際に最新のクッションシートに更新されます。長期的に見て遮音性が保たれていくでしょう。
しかし、直床に較べて複雑な構造を持つ二重床でクッションゴムや床下地材（パーティクルボードや合板）などの更新をしようとすると、床を全解体して部材更新をするしかありません。フローリング貼替えでも何の効果も無く、最近主流になりつつある床先行工法の二重床でクッションを更新しようとすれば床全解体＝壁全解体＝天井解体となって、スケルトンリフォームとほぼ同義になります。
二重床で使われている部材は10年そこらでダメになるものではありませんが、所詮はゴムと樹脂で成型した木材。躯体と同じ寿命があるものではありません。特に二重床のクッションゴムは「硬度」が遮音性に大きな影響を与えるのですが、ゴムはどうしても年月を経るごとにクッション性能（柔らかさ）が低下してしまいます。50年以上もつことを「確信している」と曖昧な表現を使う二重床メーカーも中にはあるようですが、仮に50年以上破損しなかったとしても、遮音性能が保たれるはずがないのです。

■二重床は遮音性を維持しにくい

最新の配慮ある二重床には、巾木と床仕上材との間に太鼓現象（騒音悪化）を緩和するための空気抜き隙間（約2mm）を設けています。（残念なことに空気抜きの隙間を設けていない二重床が新築マンションにも沢山あります。このあたり改善を期待したいです。）

＊画像クリックで拡大

2mmとはおよそ爪楊枝の太さ分の幅。
小さい隙間ですが果たす役割は大きく、隙間がふさがって床下の空気が拘束されてしまうと太鼓現象が拡大し遮音性が1ランク以上（5デシベル以上）悪化するという実験結果が得られています。（万協フロアなど二重床メーカーの試験資料を見ると2mmの隙間がしっかりあっても重量床衝撃音レベル低減量は直床未満のマイナス値なのですが、隙間がふさがるとその値が更に悪化します。）

しかしこの隙間、はたして長期的に維持することが可能でしょうか。

普通に掃除機やモップ拭きでの清掃をしているだけでは、長期的どころか数か月程度でゴミが詰まってしまうでしょう。
頑張って爪楊枝で壁全周埃をかき出す！？
しかし隙間はL型になっている為、奥に詰まった埃はかき出せませんし、そもそも上階の人が掃除をしてくれなければ住み手にとっては意味がありません。
普及はしていませんが、戸田建設が開発したモヘア巾木等をもってしてもかなり難しいと思います。

本当はこの2mmの隙間、太鼓現象の「解消」という意味では本来10mm以上欲しいのですが、そんなに隙間をあけては小物が落ちてしまいます。そんな隙間が空いていては遮音性どころの話ではなく即クレームです。

遮音性を維持するためのメンテナンスが必要ですが、現実的にはほぼ不可能。
細かな精度に大きく左右される傾向が強い二重床の「気難しい部分」が表れる一面です。