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マンションを考えるヒント

現役設計者がマンション購入を検討中の皆様におくる情報ブログです

扉の遮音性は重さよりも隙間の有無が重要

前作

引き戸も開き戸も遮音性には大差なし
http://mansionnavigate.blog.fc2.com/blog-entry-146.html


に続き、室内扉遮音に関して書いたコラムです。




無垢材を使った重厚な扉。

グラスウールなどを充填した分厚い特殊扉。

一見すると、一般的な化粧板でつくった軽いフラッシュ構造の扉よりも、かなり遮音性が高そうに見えますよね。

実際、普通のフラッシュ扉に比べると、上述したような「扉パネル自体」の遮音性にはハッキリとした差があります。

「無垢材を使った重い扉は遮音性が高いのか」と問われれば、「高い」

それが答えになるでしょう。


しかしそれがマンションで設置されているような一般的な扉と同じ建付けで設置されていたり、ましてやアンダーカットが施されるような隙間のある環境にあっては話が全く異なります。

そのような環境においては、パネル材自体が元来もっている遮音性能がそのまま生かされることは殆どありません。

なぜなら板厚や重さに代表される「扉パネル自体の遮音性」よりも、「隙間の有無」が遮音に対して非常に大きな影響を及ぼしてくるためです。



■扉の遮音性は板厚や重さよりも隙間の有無が重要


ここでご紹介できる資料の1つに、大林組により以下の研究があります。

木製扉の遮音に関する研究(大林組)
木製扉の遮音性状に関する研究(大林組1968)
https://www.obayashi.co.jp/technology/shoho/002/1968_002_29.pdf


*バリアフリーという言葉もなく24時間換気が法定となるよりはるか昔の古い資料ですが。


この研究は重役室等に用いる木製扉の遮音性改善(クレーム低減)を目的に、複数の厚さ・重量をもつ扉パネルを用意した上で、様々な幅の隙間を設けて扉を設置、比較。
扉の遮音を考える上での「隙間の影響」を明らかにしょうとしたものです。

扉重量は18kg(安価なマンションレベル)~54kg(マンションでは標準仕様としてありえないレベル)まで用意しており、隙間が無い環境(隙間粘土埋め)、隙間が10mm位ある環境など、様々な条件での遮音性を計測し、考察を行っています。


空気伝播音に対するパッシブ遮音の考え方と対策手法や木製扉の材質は、この研究が発表された1968年時点から大きくは変わっていません。
一方近年はアクティブ遮音が主に工場騒音対策などの部分で実用化されてきていますが、それが住宅系にどのくらい波及するものなのか。この先どう展開するのが楽しみではあります。
アクティブ騒音低減システム、ANC(INCエンジニアリング)
https://www.ihi.co.jp/inc/product/product01.html
境界壁のアクティブ遮音による隣室空間の静音化(パナソニック)
https://www.panasonic.com/jp/corporate/technology-design/ptj/pdf/592_07.pdf




この研究の中では、隙間の影響として、

(隙間がある環境では)15dB透過損失の大きいパネルで扉を製作しても、隙間の影響によって5dB程度しか透過損失は大きくならないことになり、1~2mm程度の隙間によってもパネル自身の遮音特性がほとんど生かされないことを示している。
木製扉の遮音性状に関する研究(大林組1968)
https://www.obayashi.co.jp/technology/shoho/002/1968_002_29.pdf



と論じられており、扉パネル材自体の遮音性は二の次で、ミリ単位の隙間が実質的な遮音性を大きく落としていることがわかります。

現在主流となるマンション標準扉は、当然ながら枠周囲の隙間をゼロにはできていません。

普通建付け、簡易パッキン、そして何より15mm程もアンダーカットを行った標準扉形状では、扉をいくら厚くしようが重くしようが高い性能は期待できないというのが実情になってきます。


実際、試しにトイレ扉のアンダーカット部や枠周囲に詰め物をして、テープ等でしっかりと塞いでみてください。
扉の板自体を替えずとも、たったそれだけでトイレの音漏れが激減することがわかると思います。

勿論、扉厚や重さなどの要素が遮音に与える影響はゼロではありませんが、遮音性を論じる場合、第一にターゲットとすべきは隙間の根絶。
それを抜きに扉の厚さや重さで遮音を語るのは、ちょっと話が違うということになるでしょうね。



■現実的にどうすれば良いのか


それでは一般的なマンションにおいて、室の遮音性を高めるにはどうすれば良いのでしょう。


まずは換気系統をドアスルー方式ではなく天井吸音チャンバなどを設けた天井ダクト方式などにして、建具は気密性の高い四方パッキン付きの防音タイプにするのが第一選択になると思います。

勿論、引き戸ではなく、開き戸で。
開き戸の遮音に対する適性の良さが現れてくるのがこの段階ですね。

しかし新築の場合も改装の場合も換気系統に手を出すのはなかなかハードルが高く、工事範囲もコストも大きくなりがちです。

できれば建具の工夫だけで済ませたい。


(そもそも今回は建具について書いたコラムなので、建具で何等かの実例を出すべきでは!?)


・・・といった観点からいくつか例をあげてみようと思います。



・SMA-TO/スマート(通気遮音ドア)

SMA-TO/スマート(通気遮音ドア)
阿部興業株式会社
http://www.abekogyo.co.jp/smato

特殊な骨組構造により、シックハウス対策にも有効とされているアンダーカット程度の通気路をドア内部に確保した通気性能と、トイレの洗浄音・普通の会話・テレビ・掃除機などの生活音をささやき声レベルまで約27dbカットしてミュートできる遮音性能を兼備。ドア表面に通気口やガラリが不要でシンプルなフラットデザインや目地化粧が可能でデザインの自由度もアップ。



・シャットスルードア(通気遮音ドア)

シャットスルードア(長谷工)
長谷工コーポレーション(2005/10/26)
https://www.haseko.co.jp/hc/information/press/20051026.html

近年、ライフスタイルの多様化やプライバシーの確保等を背景として、住戸内の各居室でもある程度の防音性を求められる傾向が高まりつつあります。しかし、従来は通気経路確保のための木製ドアのアンダーカット(ドア下部の隙間)などが音漏れの主要因となり、住戸内間仕切の遮音性能を高めることは困難でした。(中略)この長谷工オリジナル木製防音ドア「シャットスルードア」を採用する事により、各居室やトイレ等で発生する生活に伴う騒音が軽減され、お住まいになられる方のプライバシーを守り、より快適な居住空間が生まれます。



この製品はこちらでも紹介されていますね。

RBAタイムズ 牧田司 2010/6/15
https://www.dai3.co.jp/_old_hp/rbayakyu/22th/times/news257.htm




考え方としては、扉自体は四方パッキンで遮音を施し、共に扉内部に縦方向で通気を通して距離を稼いで、その間に騒音を減衰させるという古典的なもの。

以前ご紹介した、外壁吸気口の遮音カバーと同じ考えです。

一般換気と換気口からの騒音防止
http://mansionnavigate.blog.fc2.com/blog-entry-39.html


◆換気口用消音ボックス(LIXIL)
http://shinnikkei.lixil.co.jp/products/building/clair/feature.html






しかし何というか、アレですね。


最近の新築物件は土地取得や建築費全般で原価がかかってしまっているせいか、こういった「+αの工夫」を取り入れたマンションが少なくなっていることが残念で。。。

価格は以前より高くとも、躯体計画を含めて10年前に比べ仕様が劣化している物件を多く目にします。

高遮音二重床の話もそうなのですが、せっかく開発しても、世に広まらなければ意味がないと思うんですよ。

こういう技術って。


採用されなければ、使い手としても差を感じないので、問題としても認識されない(仕方がないと納得してしまう)。


建具や遮音に限った話ではないのですが、マンション界隈ではなんか最近、悪循環になっている。

そんな気がする、2018年末。



それでは皆さま 良いお年をお迎えください。


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テーマ:住まい リフォーム - ジャンル:ライフ

  1. 2018/11/10(土) 06:00:48|
  2.  室内扉の遮音性
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引き戸も開き戸も遮音性には大差なし

引き戸は遮音性能が悪く、開き戸は遮音性能が良い。


よく聞く話ですが、これはどこまで本当の話なのでしようか。


先に結論を書くと、これは半分本当で、半分間違いです。


現在の新築マンションの室内扉に限って言うなら、私はほとんど当てはまらない(≒間違い)表現だと考えています。

久しぶりの更新になりますが、今回はマンション室内建具の遮音性に関わる「常識」について、2回に分けて書いていこうと思います。



■現在のマンション室内開き戸には「隙間」がある

もともと、「開き戸の方が遮音性が高い」といわれてきた理由。

それは、引き戸だと構造上「隙間」が出てしまう(=開き戸の方が隙間が無いため、遮音性が高い)という根拠を元にしたものでした。

詳細は次回書くことにしますが、扉の遮音を考える上で隙間の有無は何よりも大切です。
一見すると見えないような数ミリの隙間が、遮音性に大きく影響を及ぼします。

その上で、一般的に引き戸だと構造上「隙間」が出てしまう。

これはまぎれもない事実です。


・引戸の隙間の例(引込側にはクリアランスが必要です)

引き戸の隙間
引き戸の玄関からの隙間風を何とかしたい。
https://reformsoudan.net/entrance/qa/2757
リフォーム相談プロ 2017




しかし現代のマンションの室内扉においては、そのことだけで「開き戸の方が遮音性が高い」と一概に言うことはできません。

なぜなら、殆どのマンション室内開き戸には、換気のための意図的な「アンダーカット(下部隙間)」が施されており、昔のように「一般的な引き戸に比べ隙間が少ない」とは言えない現実があるためです。



■アンダーカットは意外と大きい

・アンダーカットの例

アンダーカットの例
れっちゃん一家の日常、ときどきデンマーク住宅
https://blog.goo.ne.jp/alexander102st/e/2f72057a10d3f9d4b763ec46b5fa5662



このアンダーカットは2003年改正建築基準法で定められたシックハウス対策(24時間換気)を低コストに、効率的に行うための「通風孔」です。
そのサイズは都の基準だとおよそH=10mm以上、100cm2以上。

一般的なマンションの居室では、下図のように、開き戸部でのアンダーカットや引戸の隙間を介してバスルームやトイレ付近の換気扇から換気を行う方式がとられています。


・普及版マンションで一般的な換気方式

一般的なマンションの換気方式
(財)ベターリビング「住宅の換気設備マニュアル」別冊「住宅の換気設計事例集」
http://www.cbl.or.jp/info/file/kanki-j1.pdf


*上図中、建具部分のオレンジ色の矢印表記部が開き戸下のアンダーカットや引戸の隙間を介した換気部分。


都の基準ではアンダーカット高さが10mm以上とありますが、実際には開き戸下部に15mm以上のアンダーカットが施されているマンションが多いのではないでしょうか。
測ってみるとわかりますが、足元で目立たないながらも、かなり結構大きな隙間ですね。(まちがってこのスキマに足指をはさむと相当痛い。。。)

建具下部の隙間はシックハウス対策が法令化される2003年以前にもありましたが、通風を目的にはしていなかったため、今ほどは大きくありませんでした。
更に昔、バリアフリーが今のように叫ばれるようになる以前は、扉下に戸当たりとなる沓摺(くつずり)を入れることも多々。今では殆ど見かけませんが、この沓摺があると隙間は一気に小さくなりますね。


・沓摺の例

戸当たり付き沓摺の例
家づくりを応援する情報サイト (株)ポラリス・ハウジングサービス
https://polaris-hs.jp/zisyo_syosai/kutsuzuri.html




■引き戸は引き戸で、隙間がある

一方の引き戸では上吊式、下レール式双方においてアンダーカット量は少なく、およそ5mm程度の場合が多くなっています。
これは吊込方式や振止め、車輪等の金具サイズ、部材構造上の理由もあるのですが、そのかわり引き戸では左右上方向の隙間が開き戸よりも多く発生しており、そこで換気を行うという方式をとっています。(最初の写真の隙間です)



このように昔は「開き戸は隙間が少ないため遮音性が高い」と言っても良い状況だったものが、近年では意図的に気密性を落として一定量の隙間を設けざるを得ないという現状があります。

今と昔とで、状況が大きく変化しているとう話ですね。

特に遮音性が欲しいトイレや浴室などは、排気末端に近い(通過風量の大きい)室となるためアンダーカットも大き目。

これらを総じて考えると、個人的には「開き扉の方が遮音性が高い」という話は、20年以上前のディティルをもとにした常識の、単なる名残でしかないといって良いと思います。
*二重床は遮音性が高いという話に少し似ていますね。

 二重床と直床の遮音性(誤解の理由と遮音の歴史)
 http://mansionnavigate.blog.fc2.com/blog-entry-53.html





■半分本当で、半分間違い の意味とは

はじめに、「引き戸は遮音性能が悪く開き戸は遮音性能が良い」という話は「半分本当で、半分間違い」だと書きました。

「半分間違い」というのは、上述したような近年の一般開き戸隙間(アンダーカット)に起因する遮音性の低下を指して言ったもので、主に普及版マンションの建具(要通気)であることを前提とした話です。

一方、「半分正しい」というのにも意味があります。

カラオケルームのような遮音室、遮音扉を作ること考えたときには、開き扉の方が格段に適性が上になってくるからです。
引き戸で遮音性(=気密性)を出すためには面材の工夫の他に極特殊なエアタイト機構を用いなければならず、「後加工」もかなり困難になってきますが、開き扉であれば単純なエアタイトパッキンなどで仕舞が付きます。


それでは、扉の遮音を高めるためにはどうすれば良いのでしょうか。

パッキンなどで密閉すると、換気がなくなってしまいます。
(実際扉にエアタイトを施し、天井等を介した換気に切り替えると遮音性が上がります。)

扉の面材に無垢板などを使い、分厚く重くしてみると遮音性も上がるのでしょうか。



ということで、次回は建具に関するもう一つの常識。

「重い扉は遮音性が高いのか?」

に関して、マンション室内扉という側面から書いていこうと思います。



本来、当ブログとしてはデータを出して、「ほら、差がないでしょ」と言いたかったところなのですが、大手メーカーさんに尋ねても、非遮音間仕切扉単体の遮音データは出してくれないんですよ。
この手の扉は、納まりや建付け条件によって、同じ扉でも大きく差が出るものだそうです。
特に開き扉はH寸を現場合わせ(下部現場裁断)とする場合も多く、施工現場と実験室の差異があり何の保証もできないため、数値を公表していないとのことでした。
最初たまたま良かった遮音性が、陽にあたって少し反ったら遮音性が落ちたとかもよくある話だそうで。。。
メーカーとしては、「非遮音の扉に、遮音性を期待しないでください」という話でした。
そう言われて「そりゃそうですよねー(苦笑)」と引き下がってしまうのは、私が建築関係者という点からくる「甘さ」なのかもしれませんが。


テーマ:住まい リフォーム - ジャンル:ライフ

  1. 2018/11/05(月) 06:00:11|
  2.  室内扉の遮音性
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もっと自由な分譲マンションを!

世界のドア

世界の窓 ポルト  アンドレ・ゴンサルヴェス
https://www.designboom.com/art/andre-goncalves-windows-of-the-world-doors-03-08-2016/




突然ですがマンションの共用廊下側の壁面は、各住戸それぞれがもっと自由に設計・改変しても良いと思いませんか?


こういうマンションがリフォーム性が高いとか、低いとか、なんかいろいろ言われていますが、そもそも自分の住戸のエントランス(ファサード)部分を自分で弄れずに、住まいの自由度もリフォーム性もクソもなかろうと。


我が家の外壁形状を 俺の自由にさせてくれー!


というのが、非住宅系の設計(というより一人の世帯主)である私の正直な気持ちです。



あれ?
私のこの考え、間違っています!?




だってせっかくのワイドスパンも、大きな角部屋も、「入口扉の位置」が決まってしまうと、もうおよそ住まいに適する間取りが見えてしまうじゃないですか。

田の字前提の出入口位置だと共用廊下側にリビングとか、良し悪し云々ではなく、もう動線的に言って厳しいでしょ!?

新築のパンフには「バリアフリーで長く住める二重床」とか言って車椅子の絵が描いてあったりするけど、そもそも一般な常閉SDは車椅子だと一人で開けられないと思うよ!?

水回りを動かせるとか何とか言っても、70平米やそこらのハコで開口部がすべて決まっていて、一体どこに水回りを動かす気なの!?

みんな一体、どうするつもりなのさ!?

(・・・以上、ここまで全部愚痴)



ということで、今回は何かを論ずるというのではなく、単純に私の願望を書いていこうと思います。

ご同意いただける方は拡散を。
生暖かい目で読んでやってください。







■まずはファサード外壁を専有資産に


一般的な分譲マンションでは、共用廊下側の壁面自体が共用資産です。

つまり規約・制度的な観点ではなく、資産持ち分的に言っても住み手の都合で改変できる余地はありません。


・・・・ということで、まずはこれを専有資産に変更、っと。
(当然販売前の商品企画段階での話ですが。販売した後はさすがに難しい。)



しかしファサードに整然と同じ形が並んでいることを良しとするか、一定範囲内の個性があることを良しとするかは個々の好みであり、意見が分かれますよね。(私は後者)


扉や窓の位置を変えたり、車椅子の人がリモコン自動扉仕様にしたりはまだしも、全面ガラス貼にしたり、ガレージ風にしたり、屋根を付けたり、外壁を赤にしたり青にしたり・・・と、このあたりまでくると私から見ても一難出てくると思います。

そう考えると、壁面への仕上げ(例えばタイルなどの種類)はある程度の範囲に指定し、扉の仕上げや位置、窓の配置などに自由度を持たせるくらいが丁度良いのかな。


もちろんこれらは構造や防水、各種法規をクリアした上での話です。
当然、室の面積も変えられないですね。


また改変できる外壁部分は、非構造体であることが必須ですね。

例えばこういうの(構造体兼用)だとNG。

https://www.smcon.co.jp/service/sukkit/sukkit1/
(RC構造腰壁:SuKKiT1:三井住友建設)



共用廊下の防水や長尺シートは事前に専有ライン際に設置する金物等に巻き上げて縁を切り、壁面はALCなど容易に改装できる構造にしておく必要がありそうです。



よーし、だんだん(妄想が)楽しくなってきたぞ。



しかしそうすると、必ず必要になってくるのが次のこれです。




■ファサード部分の指定会社工事(B工事)制を導入


構造や防水、各種法規をクリア することが必須と書きましたが、居住者の一部や巷のリフォーム業者にはそれらを守らず、適当な仕事をする連中がたくさんいます。

面積拡張や躯体ハツリ、温室の設置やコア抜き等もお構いなしでやりますし、当然のことながらやったもん勝ちで違反の施工も元に戻しません。(専有部内でも同じといえば同じなのですが。)

このような外壁回り工事を各戸任意のリフォーム業者に任せておくわけにはいきません。

外壁まわりは、マンション管理組合指定の会社で責任施工とするべきです。

商業、オフィス系でいうところの、いわゆる「B工事」というやつですね。

例えばマンションであれば、建物施工を行ったゼネコンとか、その関連会社に一任するとか。
管理組合指定ですから当然、施工会社は全体規則に反する工事は行いません。

信頼性と継続性のある会社に見積もりをとり、施工を任せることを条件に、管理組合は改変・施工を許可するという流れです。
防火性能などもそのマンションのその住戸に合わせてたもので施工します。

*こういうことを言うと、必ずゼネコンの利権が、、、という方がいらっしゃいますが、正直この手の工事はゼネコンにとっても面倒なだけの厄介仕事で、うま味のあるものではないです。



ご存じのように、このような工事方法や規則は、テナントビルなどでは長らく主流となってきました。
賃貸であっても、原状回復を条件に、いろいろ躯体に穴をあけまくったりしています(笑)
(当然、構造上も法規上も問題ない範囲で ですよ)

分譲マンションで当該部を専有資産としてしまえば、原状回復の義務は生じないでしょうね。
(つまり組合への撤去敷金納入も不要かと)


さあ、あと残る専有居室内部の工事は、今まで通り、任意の工事会社(リフォーム会社:C工事)で工事をするだけ!

居室配置の自由度も高まり、本当の意味でのバリアフリーも実現できるはず。






もちろん、これらはすべてマンション販売前、企画段階での話です。

整然とした規則規約で大きな問題なくやってきているマンション業界。
この様な「自由度」は日本人の気質には合わない部分もあるのかもしれませんが、非住宅系でやってきている人間からすると、もう少しなんとかしてよ、と思ってしまいます。

マンションデベロッパーさんも面倒でやりたくないのは重々わかりはするのですが、いかがでしょうか?
ともすれば、お金をかけずに商品の差別化にも、、、、ならない かな!?

  1. 2018/07/07(土) 07:00:37|
  2. ■その他
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リフォーム性の高いマンションとは

「リフォーム性の高いマンション」

雑誌やコラムでもよく目にするテーマですよね。


「二重床が良い」

「スケルトンインフィルがベスト」

「高い階高が必須」


いろいろ言われてはいますが、はたして本当にそこが重要なのでしょうか。

今回はこの部分に関して、私なりの考えを書きたいと思います。





■「リフォーム性」には2種類ある


まず、一言で「リフォーム性」と言っても、その「リフォーム」の内容により2つにわけて考える必要があります。

「小規模リフォーム性」と「大規模リフォーム性」です。

これを分けて考えないから、リフォーム性を語る話がねじ曲がったり、ゴチャゴチャになってしまうんですよね。

ということで、まずはその部分の話からはじめましょう。





■小規模リフォーム性

ここでいう「小規模リフォーム」とは

・フローリング、クロス等仕上の貼替え
・トイレ、ユニットバス、システムキッチン類の入れ替え
・子供部屋の分割、統合
・ウォークインクローゼットの設置

などの、表層、間仕切壁撤去新設程度のリフォームのことを言います。

実はこれ、中古だろうが新築だろうがどんなマンションでもあまり大きな差が出ない分野で、あえて言うとするならば「壁先行タイプの二重床」では間仕切り撤去、新設等の壁系リフォームがしにくくなる、という程度でしょうか。

*本当は床先行二重床の中でもフリープラン対応の二重床を使ったマンションは殆どないので、床先行でも同様に補強仕込などの工事が必要なんですけどね。リフォームできないわけではありませんが、時間とコストが余計にかかるという話です。

このあたりの詳細は以前こちらに書きましたので参考にしてみてください

二重床はリフォーム性が高い?(間仕切壁の撤去と新設)
http://mansionnavigate.blog.fc2.com/blog-entry-51.html
(マンションンを考えるヒント 2014.06)




ここで注意したいのは、この「小規模リフォーム性」というのは

「リフォームできるかどうか」というよりも「リフォームしやすいかどうか」

という部分を評価した性能だということ。

また一般的にマンションで行われる「リフォーム」は、この範囲に収まるものが大半であるという点も、「リフォーム性」を考える上での大きなポイントになります。


つまり実際のリフォームの現場では、巷で「リフォーム性が低い」と言われている直床の方がリフォームしやすい(リフォーム性が高い)場面も多くあるという・・・なんか皮肉な話なのですが、まずは小規模リフォーム性とはそういうものだと認識しておくことが必要ですね。







■大規模リフォーム性


残る「大規模リフォーム」とは、

・ユニットバス、キッチン、トイレ(水回り)を大きく移設する
・トイレ等を増設する
・フルスケルトンから専有部を全部つくり直す

など、水回りを含めて平面位置を変える、「リフォーム」というよりも、「リノベーション」と言った方がイメージしやすいレベルの改装工事を指します。
*リフォームもリノベーションも言葉の定義としてはあいまいなのですが、イメージとして、の話。


実は雑誌等で「リフォーム性」と言ったときにはこの大規模リフォーム性を指している場合が殆どなのですが、前述したように数の上で言うとこの大規模リフォームはマンションリフォームの主流ではありません。

いろいろ語られはするものの、実際に大規模リフォームをする人は・・・あまり多くない。

ではなぜ大規模リフォーム性が語られるのかというと、小規模リフォーム性のような「リフォームのしやすさ」ではなく、「リフォームができる・できない」が論点、評価のポイントになってくるからです。


「将来的に○○したくなっても、できないかもよ」


なんて言われると、そりゃ誰だって気にしますよね。


小規模リフォーム性は、まあ、あまり差が出ないということで、
ここからは大規模リフォーム性に関しての優劣に関して、書いていこうと思います。







■大規模リフォーム性の高いマンションとは

そのうえで、私が考える大規模リフォーム性が高いマンションとは、、、






広いマンション です






ふざけんな!!!


という声が聞こえてきそうですが、これ、本心ですよ。


重要さに順位をつけるとするならば、

1:広いマンション
2:柱やPSが専有部の隅にあるマンション
3:全体が深い(段差スラブではない)二重床
4:天井スラブに対し自由にアンカーが打てるマンション

といったところでしょうか。


「階高」は・・・・さらにその次くらいでしょうかね。
(何するにせよ、階高は高い方が良いですけど。)


長くなってきましたが、一つ一つ簡単に説明したいと思います。



■狭いマンションは可変性がとれない

大規模リフォームを行おうとしてプランを描くと、広さがなにより大きな「自由度」を産むことがわかります。

このことが殆ど語られていないことは、個人的には本当に不思議でなりません。

例えば、「階高2.9mだとリフォームできなくて、階高3.1mだとリフォームできる」なんてことはあまりありませんが、「65平米だと実現できないリフォームが70平米であれば実現できる」というシーンは結構あります。

例えば4LDKが欲しくとも、60平米のマンションだと、まあ、無理でしょう。

整った形のリビング、車いす対応、一人ひとりに与える子供部屋。

描いてみるとわかりますが、これらには多くの場合、広さが必要。

単純で当たり前の話ではあるのですが、ある程度の知識がある方だと余計に抜けがちな点でもあると思います。

また、マンションでは窓や扉、PSが動かせないので、例えば70㎡で3LDKを組もうとすると、躯体形状に応じてほぼ取りうる間取り(部屋配置)が決まってきてしまいます。
水回りの移設云々の前に、およそ平面計画上の可否や正解が出てしまうのです。
(下手に組むと居室が納戸使いになって売りにくなるし。。。)

しかし、それが90平米だったら、、、話は全く変わってきます。


現状を大きく変えたいはずの大規模リフォームも、狭い専有部ではなかなかうまくいきません。

ことリフォームに関していえば、多くの場合で「大は小を兼ねる」と言えます。



■PSは動かせない柱と同じ

大規模リフォームを考えたとき、専有部の中央に通るようなPSは、細目の柱と同じ扱いになってきます。

例えば下図のような位置にある「オレンジ色のPS」は、大規模リフォーム時に位置を動かせず、平面計画上でかなりの制約を生むことになります。

大規模リフォームの邪魔になるPS
(3LDK間取り比較 SUMO リクルート 2016)

*わかりやすいように図上にPS位置を追記しました。

せっかくのリフォームで、まさかPSを柱状に丸出しにしてリビング中央に配置することもないでしょうし、部屋数を減らして一部屋当たりを広くしようとしても、「おいしい位置」にPSがあることで平面計画上の難(制限)が出てきてしまいます。

専有部内でのPS位置は間取り図の中でも小さく埋もれたように書かれているため、スケルトン(白紙)状態にして初めて気づくことが多いのですが、ここはかなり重要なポイントになりますね。



■水回りの移設には「深い二重床の範囲」が重要

二重床(≒水回り)ってもっと優先度が高いのでは!?

と思われるかもしれませんが、私としては広さより優先順位が高いものではないと考えています。

水回りに関しては規約で移設が禁止されているマンションもあるのでまずはそこから・・・ではあるのですが、数ある住宅設備の排水の中でどうしても深い床下空間が必要なのって、実は「ユニットバス」のみだったりします。

トイレもキッチンも面台も器具自体の排水位置が高いため、大規模リフォーム(床壁の新装)が前提であれば、工夫で水勾配を解決しようがあります。
*「アイランド形状」になると結構厳しいですが。

例えば「直床だと車いすになった時の広いトイレが作れないかも、移動できないかも・・・」なんて話も聞きますが、直床だろうが何だろうが、トイレは移設できますし、車いす用も普通に作れます。
大便器は壁排水にすると結構排水口が結構高いので、マンション程度の面積であればライニングを介して割と自由に配管を取り回し位置を変更できるんですね。
*一方で車いすに対応する場合には、排水位置の制限よりも通路を含めた全体的な「広さ」や、何より入り口の鋼製扉(一人で開けられない)が問題になる場合が多いです。

シンクも洗面台も話は同じ。
直床でも段差スラブの二重床でも、深い段差スラブの範囲に設置什器が少しでもかかってさえいればアイランド型設置することだってできますから、「バルコニー窓側を背にキッチン」みたいな計画でない限り意外と何とかなる部分も多いです。
*なんとかならない部分もあるので優先度を「3」にしていますが。

その上で、水回りの移設には「深い二重床の範囲(排水配管を埋設できる範囲)」が重要です。

二重床はリフォーム性が高い?(段差スラブと水回りの可変性)
http://mansionnavigate.blog.fc2.com/blog-entry-50.html
(マンションンを考えるヒント 2014.06)



でも書きましたが二重床マンションでもこの範囲は結構狭い物件が多く、直床マンションと同じくらいしかなかったりしますので、気になる方は図面上で確認しておく必要があります。



■意外な盲点となるアンカー設置の可否

ここで言うアンカーと、はこういうものです。

天井スラブアンカーの例
(日栄インテック株式会社 設備用配管支持金具)



天井スラブコンクリートに穴をあけて、ネジを差し込むための金具ですね。

現実問題、天井スラブにこのアンカーが打てないと大規模リフォームはかなり大変になります。

ダクトの盛替え、ファンの移設、天カセエアコンの設置、オリアゲ天井の形成など、基本的にアンカー・インサートを使って全ネジで吊り込みたいところなのですが、根本的に平面が変わると既存位置で設置するはなかなかシンドイ。

先行の既存インサートを使いダクターシャンネル等で下地を組みなおして設置することもできますが、それもまた限界があります。

普通のコンクリートスラブにアンカーで住宅設備を吊るくらい、躯体に対しては何ら問題を起こすものでもないのですが、規約でアンカー打設を禁止しているマンションも結構ありますので、大規模リフォーム性を考えるのであればぜひこの部分も確認したほうが良いと思います。
*実際的な問題としても一部のボイドスラブやプレストレストコンクリートは後打ちアンカーを嫌います。









■そもそも大規模リフォーム性ってそんなに重要?


テレビ番組の「○○ビフォー・アフター」を見て、みなさんはどう思わてているでしょうか。


私はいつも(いつも見ているわけではありませんが)

「リフォームせずに住みかえろよ。必要なのは匠じゃなくて不動産屋だろ。」

と思って見ています。

*テレビ映えを意識してか「無理矢理なことやってるなー」とも思っていますが。


ここまで「リフォーム性の高いマンションとは」というタイトルで長々と書いてはきましたが、大規模なリフォームには相当なコストがかかりますし、いくらリフォーム性が高いマンションでもマンションである限り避けられない限界があります。

どれだけ大規模にリフォームしても、立地や広さは変えられません。

サッシュ回りや共用部も、変えられません。


ライフスタイルの変化に合わせてリフォームするというのなら、「立地と広さ」も含めて、更に大規模な「リ・ホーム=住み替え」を視野に入れる。

マンションでの大規模リフォームがあまり多くないのは、自然とこの視点がでてくるからだと思います。

(そもそもマンションって、そういうライフスタイルの変化に合わせ住み替えで対応できるようにすることも含めて(流動性も考えて)選ぶものですしね)


実際のマンション選びでは、リフォーム性が高ければ高いほうが良い、とだけ言えるわけでも、ないのかもしれません。

例えば「将来的にもやるかやらないかわからない大規模リフォーム(の一部の可能性)のために二重床下で広い空間を寝かせておくよりも、天井高に使って常に広い空間を感じた方が良くない!?」という考えも一つですし、割高になるスケルトンインフィルマンションを買うくらいなら、同じ値段でちょっと広めの普通のマンションにした方が、実は実際のリフォーム自由度も高かった。なんてこともあり得ます。

いつも言うことですが、予算が無限にない限り、マンションの仕様は一長一短あるものです。

別に大規模リフォームを否定するわけではありませんが、自分が何を優先させてどう考えるのか、全てを備えようとするのではなく、順位をつけて選ぶことを、お勧めしたいと思います。


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  1. 2018/06/12(火) 21:22:15|
  2.  リフォーム性・スケルトンインフィル
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「ALC=悪」ではない

マンション外壁へのALC採用は、単なるデベのコストカットであり、手抜きの象徴。

マンション評論家さん達からは、ALCは消費者にとってはデメリットばかりで何もメリットがないような記事が多く出ているようですが、はたしてそれは正しい情報なのでしょうか。



最初に私なりの結論を言うと、マンション外壁への ALC採用自体、そのすべてを消費者が避けるべきものだとは考えていません。


・一概にデメリットとされている「シールジョイント部の漏水懸念」は大きいものではない

・ALCには軽いという特徴があり、それは消費者にとってもメリットになる


ことが、その理由です。



いつも通り話は長いのですが、折角なので、ほぼ1年ぶりにいろいろ書いてみたいと思います。
(ここでのALCの話は、特記なき場合すべてRC比の話であるとお考え下さい)






■ALC採用による漏水懸念増は、杞憂のレベル


まず、ALCとは、、、こういうものです。

https://www.asahikasei-kenzai.com/akk/pb/powerboard/about_pb/alc.html
(旭化成建材株式会社 パワーヘーベルボード)



普通のコンクリートを「ガーナチョコレート」に例えるとすると、ALCは「霧の浮船」ですね。



前述した「ALCの漏水懸念増」 というのは


ALCはRCに比べて小割なので、パネル間のシールジョイントが多くなる
     ↓
シール部からの漏水懸念、メンテコストが増加する
     ↓
ALCは危険。 かしこい消費者は避けるべき




という理屈を基にしたものです。



なるほど。

そういわれてみてば、その通りですね。




確かにこのようなリスクの増加はゼロではありません。
RCの方がより良い(低リスク)と考えられます。


しかし重要なのは、理屈や懸念の「有無」ではなく、その「度合い」。

「ALC化に伴う漏水やメンテの懸念(リスク増)が消費者として避けるべき程度のものなのかどうか」が最大のポイントです。



巷にはALCのシールがすぐ切れたり劣化したりするようなイメージで書かれている記事も多いですが、実際にはそれほどヤワなものではありません。

商業・事務所系の建物ではRCよりも遥かにユルいS造にALCを引っ掛けて(←ロッキング工法と言って文字通りパネルを完全固定せず引っ掛けています)庇も何も無い外壁雨ざらしで使われているものが数多くあります。
しかしそこでシールジョイントからの漏水が頻繁に起きて問題になっているかというと、決してそうではありません。
マンションばかりではなく建築物全体としての実績をみてみると、ALCの外壁やシールジョイントはそれ自体が防水機能として許容される十分な強度をもつものと言えるでしょう。(完全な強度ではなく、十分な強度というのがポイント。)

ましてやマンション外壁でALCが使われる場所はバルコニーや共用廊下側のように庇がある部分の下、通常雨ざらしにならない壁面であることが大半です。

ALCの防水信頼性を考えた時、このような部分にALCを採用することによる漏水ネガ、デメリット(対RC比)は、殆どないと言って良いと思います。( バルコニーや共用廊下側 での漏水は壁材の種類よりも床際の防水やサッシュ回り、水勾配に起因するものが多い)

ただしRCを採用できるマンション居住棟において、庇の無い雨ざらしになる外壁にALCを採用するのは、私個人にもちょっと残念だな・・・・とは思います。
前述したようにそれが即「=漏水の危険!!」と騒ぎ避ける程のものではありませんが、特にバルコニーが無いような角部屋を選ぶ時には、ALCがどこに使われているのか(使われていないのか)を確認しておいて損はありません。

マンションの諸元の欄を見ると「構造:RC造(一部ALC)」と書かれるものも多くありますが、ALCはマンションでは居住棟の躯体のほか、駐車場棟やエントランス棟、エレベーターまわりでも使われています。(独立エントランス棟や単独エレベーターシャフトまわりなど、フラットに見てS造が適しているものも多いです)

建材の世界も需要なのは適材適所。

どうしてもALCが不安な人、嫌な人は、それが一体どこに使われるのか確認しておくことをお勧めします。






■ ALCの強度は大丈夫?


ALCはRCに比べると間違いなく弱いです。

では弱いからダメなのかというと、そういう話でもありません。

一言で強度と言っても、建物の耐震性にかかわる「構造強度」と「素材自体の強度」にわかれます。

ALCは「構造強度」が求められる部分で使われることはありません。

その部分の壁自体がなくなっても耐震・構造強度上のネガなない部分にALCは使われているので、ALC強度の優劣が建物耐震性に直結することはないのです。
*逆に強度が必要のない部分に強度が出すぎて耐震性にネガが出る場合もあります。

「素材自体の強度」 もRCより低いですが、それは実的に問題になるレベルではありません。
これは LGSと石膏ボードで作られた 専有部分の間仕切り壁が、強度上問題にならないことと同じ話です。

ただ、地震などでもそうそう割れるものでも無いのですが、割れた時の水に対する耐水抵抗性はRCに劣ります。
「庇の無い雨ざらしになる外壁にALCを採用するのは、私個人にもちょっと残念 ・・・」と書いたのは、シールの防水性だけではなく、このあたりを含めての話になりますね。






■ALCのメリット

ALCの大きなメリット は、軽いことと工事が早いことです。

特に「軽い」ということは非常に重要で、構造や形状、住まいの形、コスト面、メリットをもたらしています。
建物が軽ければ柱を細くできるので、住む人が実用できる面積を広くできますし、そのことで躯体計画、プランニングの自由度も高まります。
建物を軽くできれば同じ強度でも構造体のコスト自体を低減できます。
(同じ構造体であれば耐震性が高まります)

ALCは特に重量増を嫌うS造や超高層建築で必要不可欠なものになっていますね。


また、工事が早く済むことは主にコスト面での大きなメリットをもたらします。

「なんだ、やっぱりコストカットの手法かよー」

と残念にとられる方もいらっしゃると思いますが、コストカット自体は、悪いことではありません。

コスト削減=悪!?
http://mansionnavigate.blog.fc2.com/blog-entry-82.html



でも書きましたが、正しい手法で行われたコストカットは消費者にとっても大いに評価、歓迎すべきものです。

おまけではありませんが、ALCは断熱性も高い素材です。
マンションではALCの断熱性に頼ることはあまりないのかもしれませんが、RC比で高い断熱性能を示すデータがあり、それは住む人にとってもプラスにはたらくものです。







■ ALC=悪とする話は・・・


ALCを悪役にして書かれたマンション業界の話、多々ありますよね。

私が見る限りでは、

・古い知識や自身のこだわりに基づき、専門家としての蘊蓄を主張(≒販売)したいもの。

・単にALCを多用する「タワーマンションが嫌い」という個人的な理由に関連し、その理屈としてALCを語ったもの。

がその過半を占めており、不安だけが煽られる中で「実際どうなの???」という部分がわかりにくく感じていたので、今回このような記事にしてみました。


特に後者には

タワマンは雨漏りしやすい?

などという記事を量産している専門家さんがいらっしゃるようなのですが、
*最後の「?」が著者なりの「逃げ」のつもりなのか、少しかわいらしくも見えますね(笑)

そのように言ってしまえば

・角部屋は雨漏りしやすい(外壁面積増による漏水懸念増)
・窓が多い建物は雨漏りしやすい (シールジョイント増による漏水懸念増)
・日当たりの良い建物は雨漏りしやすい(紫外線負荷による漏水懸念増)
・戸建て住宅は雨漏りしやすい (外壁面積増による漏水懸念増)

などなど、なんとでも言えてしまいます。


実際これらの話は決して間違いではなくある意味では正なのですが、それがイコール「避けるべきもの」だったり、「良くないものである」という話ではありあません。


ただ、なんとなく

・危険なイメージが出る(→文章を売りやすい)
・住む人が不安に感じる。(→他人の不安や不幸は面白い)


そこがそのような記事を書く人たちの狙いです。


どのマンションもどの建材も、部分部分で一長一短なのですから、不安を煽る人たちの話に騙されては損をするばかり。

自分自身が住まい選びで何を優先するのか、その不安は自分が恐れるべき程度のものなのか、正しい情報を元に、自分自身が判断できるようになると良いですね。






*最後になりますが、私高橋はALCメーカー、関連会社に勤めるものではありません。
 (アスロックもほぼ同様ですが、アスロック関連でもありません)
 実のところ自分の設計でALC自体あまり使わないのですが、ALC建築にかかわる機会は多くあります。
 そのためALCを持ち上げる意図もなく、利害関係も全くないことを書いておこうと思います。



<関連記事>

・「メリット」と「デメリット」を考える上での注意点
http://mansionnavigate.blog.fc2.com/blog-entry-75.html


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  1. 2018/06/10(日) 13:50:49|
  2.  ALC
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エコキュートは危険物・・・ではありません

読者の方から、

「危険物に指定されるようなエコキュートは、震災時に破裂したりはしないでしょうか」

というご質問をいただきました。


なんでも、とある「一流建築家」さんが

「 オール電化 」の次の問題点は給湯システムです。「 オール電化 」の給湯システムは深夜電力( 昼間の電気代より安い電気 )を使い「 自然冷媒ヒートポンプ給湯機 」( 俗称:エコキュート )でお湯を作り「 貯湯タンク 」に貯めます。
更に、この「 自然冷媒ヒートポンプ給湯機 」と「 貯湯タンク 」はかなりの面積が必要で、実際使用可能な専有面積が狭くなってしまいます。
この「 貯湯タンク 」は我国では「 危険物 」扱いになっていますので「 貯湯タンク 」から出るお湯の圧力が2Kg/平方センチ未満に抑えられています。
ほとんどの「 貯湯タンク 」はお湯の出口の圧力を1.8Kg/平方センチ未満にしております。
具体的にどの様な現象になるかと言いますと給湯の圧力が1.8Kg/平方センチ未満ですと、シャワーの勢いが「 ガス瞬間湯沸し器(ガス24号給湯器) 」より「 かったるい 」のです。
http://www.jmca.jp/column/jyu/jyu80.html
「オール電化」より調理はガスが良い。 日本経営合理化協会



とおっしゃられていることを心配し、ご相談くださったようです。


なるほどなるほど。


うーむ、これは困った話ですね。


何が困った話なのかというと、一流建築家さんが書いたこの話、まったくのデタラメなので、困っているのです。


まず第一に、

エコキュートの貯湯タンクは、危険物ではありません。

そもそもエコキュートの貯湯タンクには、構造上、上水道圧以上の圧力はかかりません。
つまり構造的には、太くなった水道管と同じようなものです。
当然ですが、危険物指定はされていません。

もしかすると、ノンフロン冷媒より高圧なCO2冷媒(←これも危険物にはあたりませんが)と勘違いされているのかとも思いましたが、どうやらそういった話でもないようで。。。
この方が一体何を勘違いしてこのように言っているのか、まったくの謎です。


さらに2つ目として、

「貯湯タンク 」から出るお湯の圧力は・・・・2Kg/平方センチ(200kPa)未満に抑えられています

  抑えられてはいません。


おそらくこれはエコキュートが「労働安全衛生基準法に基づくボイラー及び圧力容器安全規則」の規制を受けるものと勘違いしたことが原因の間違いだと思われます。

同じ貯湯タンクをもつ電気温水器は「電気ヒーターによりお湯を加熱している」ため、この規制の対象となり、タンク圧力を200kPa以下に抑える必要があります。

しかしエコキュートはお湯の沸き上げに電気ヒーターを用いず、空気が持っている熱を取り出してお湯に集めて加熱しているため、上述した労働安全衛生法施行令の適用外となっています。(機械自体に熱源はないとみなされるらしい)

このあたりは実際に300kPaを超える高圧設定となっているエコキュートがメーカー各社からラインナップされていることからも、その事実を理解することができます。


■ ダイキン エコキュート パワフル高水圧320kPa
ダイキン パワフル高水圧エコキュート 320kPa
http://www.daikinaircon.com/sumai/alldenka/ecocute/function/powerful/

ダイキン 2017





(間違った経緯を)少し調べてみたのですが、この一流建築家さん、10年以上前に自身が執筆するコラムでは

「この「貯湯タンク」は我国では「危険物」扱いになっていますので「貯湯タンク」から出るお湯の圧力が1KG/平方センチ未満に抑えられています。ほとんどの「貯湯タンク」はお湯の出口の圧力を0.9KG/平方センチにしております。」
https://www.sumai-surfin.com/columns/mansion-sinan/unwftoqmqj 2005.08.16 住まいサーフィン



と書かれていたのを、最近になって圧力数字だけを2倍に書きかえ(間違いなのですが)、続く「かったるい」という感想部分は昔のままに、別な場所で書いてしまっているようですね。

この手の設備機器は日進月歩ですから、古い情報や自身のイメージを事実確認もせずに語ってしまうのは、お年とは言え専門家(コンサルタント)という立場で仕事をしている以上、残念でなりません。



尚、およそ0.3㎡ほどの床面積を必要とする貯湯タンクの設置スペースは、容積緩和(上乗せ)をもらえるため、プランニング上の面積は必要になるだけで容積上のロス(≒価格直結の面積ロス)にはならない点を補足しておこうと思います。

このあたりは

スムログ内のはるぶーさんの記事

お便り返し-2 オール電化のデメリット
https://www.e-mansion.co.jp/blog/archives/4032/
2016.10.6 eマンション



内でも私の話を扱っていただきましたので、ご興味があればご参照頂ください。




しかし、

一般の方は、自称一流建築家さんの話の論拠が、まさか丸々デタラメだとは思いませんよね。


以前も書きましたが、マンション業界は本当のようなデタラメがまことしやかに語り継がれ、一般消費者にとっては必要以上に不安があおられる世界。


正しいことを論拠をもって、正確に伝えること。

私自身、気を付けていきたいところです。

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  1. 2017/09/18(月) 14:19:26|
  2.  エコキュート
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豊洲市場は法定基準を十分に満たした新型なのですが

これは建築的な話ではなく、単なる雑記です。







とある「都民さん」がこの春、50年以上も乗った古い車から、「新型車T」への乗り替えを計画していました。

今度の車は綺麗で安全なエコカー。
旧車とは違い、当然ながら現行の車両法定基準を満たしています。


これまでの車とは違ったハイブリッド装置に対する危険性を指摘する声や、旧車の風情にこだわる人達からの反対にもあいましたが、昨年やっとの思いで契約できました。

既に新車登録も車検もOK。

保険契約も済んで、駐車場も契約しました。

あとは納車を待つだけ



・・・という段階で、突然、ある問題が浮上します。



「新型車Tの車両後部フェンダー下に、カタログイラストには描かれていない「穴」を発見。経緯を調査!」


続いて、元々新型車Tへの乗り換えに反対していた人達が、その「穴(排気管)」にガス検査装置を突っ込みながらこう騒ぎます!


「新型車Tの後部にある「穴」からガスが噴出。環境基準(大気)の○○倍の窒素酸化物を検出!」

「鼻をつく異臭! 直接吸うのは危険!!!」



突然ふってわいた騒ぎに「都民さん」があっけにとられる間、マスコミの報道は更に過熱します。



「こんな車に乗るなんて考えられない!都民の健康を第一に考えるべき!」

「穴の存在を事前に報告しなかった担当者はクビだ!」

「安全だんてまやかし。車台の下に有毒ガスが潜む車で運んだ食べ物は食べられません(怒)」



ヒートアップした報道に便乗するように、自称専門家達が現れて騒ぎ立てます


「そもそも何だこの穴は!?汚染されたガスが噴出しているだけではなく、液体も滴っているし、欠陥車じゃないのか!?」(後日問題なしと判明)

「見ろよこの写真、前輪が曲がっているぞ。これは構造的な欠陥もあるに違いない!!」(後日問題なしと判明)




一部には「そんなの当たり前」とか「今乗っている旧車よりはるかにマシ」といった声もありましたが、あることないこと含めてさんざん騒がれた「都民さん」はとても不安になって正常な判断ができない状態です。


家族からも

「都民の安全性を考えると、これは新型車への乗り換えを慎重に考えるべき」

と言われてしまいまいた。




そんな中、急遽都知事が会見を開き

「この新型車の使用を無期限で禁止します」との政治判断をします。


不安に踊らされた世論とマスコミの報道を受け、都知事の支持率はうなぎのぼり。





その一方で新車に乗り換え予定だった都民さん。

今日も安全性に疑義のある旧車にのりながら、より安全は新型車が完成しているにも関わらず、利用することができません。

しかし各種契約は済んでおり、維持費だけは毎日垂れ流しです。。。



そもそも直接吸うことを想定していない排気ガスに大気環境の基準値をそのまま当てはめるべきなのか、、、他の車も同じ構造では!?

・・・時々ふと何か議論が根本的にに間違っているような気がする時もありますが、「絶対安全」を叫ぶ世論や雰囲気に押され、もう自分ではどうすれば良いのかわからなくなってしまいました。



新型車は今も使用禁止です。



やはり都民さんは、新型車に乗り換えるべきではないのでしょうか。


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  1. 2017/01/17(火) 07:00:57|
  2. ■その他
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豊洲は大丈夫なの!?

本日2016年10月11日

「豊洲新市場の地下水から環境基準値を上回るベンゼン・ヒ素が検出」

という報道からしばらく時間がたちました。

エスカレートしていた報道も少し落ち着いた感(飽きられた感!?)がでてきている時期ですね。

そんな中、私も建築関係者として、

「豊洲の安全対策は、安全性は大丈夫なの?」

などということを、幾度か聞かれることがありましたので、実際の部分が分かりにくくなっている今だからこそ、豊洲新市場の騒動に関して少し書いてみようと思います。

*ちょっと出遅れた感のある話題ですが、なにせ半年以上ぶりの更新なので、大目に見てやってください。


■豊洲って大丈夫なの!?

まず初めに書いておきますが、私高橋は、豊洲とも、豊洲市場とも、市場の設計・施工会社とも、都とも一切関係のない立場にいます。
豊洲のマンションなんて高くて手が出ませんし、個人的に言うとあまり好みの街でもありません。都心に近く、これから発展の余地がある場所だとは思いますが。

その上で、
「豊洲は大丈夫なのか?」

この点に関して、建築関係者としての私の考えを一言であらわすならば

「大丈夫」

ということになります。


そもそも、豊洲市場の安全対策は、現時点で既に

「やりすぎ」です。

豊洲市場では一般的な基準値をクリアしたうえで、念には念を入れるという考えのもと、元からどこにも存在しない「100%の安全」を求めて(求める一部の声に応えるという体裁のために!?)盛土や地下水管理システムなど「プラスアルファの安全対策」を行ってきました。
私からすれば、それらの追加対策は常識的なレベル(費用対効果を期待できるレベル)をはるかに超えており、巨額を費やしたものの実質的な「食の安全」に対してどれほど有意に作用するのか疑問に思える程ですらあります。

今回「環境基準値を上回るベンゼン・ヒ素が検出」と騒がれてはいますが、その「環境基準」とは「飲用水等」に対する基準値であり、飲用や清掃などに用いない豊洲の地下水がこの基準値を超えていようがいまいが本来のところ関係ありません。
飲み水ではない水が、飲み水の基準を満たしていないだけ。
極端に言えば「東京湾の海水が飲用に適さない」という話と大差のない話ですね。

一般的に求められる基準は十分にクリアしている今の豊洲市場を「大丈夫ではない」というのであれば、現築地市場も含めた世の中のすべての建築物や開発に対して「大丈夫でない」と言わざるを得ないことになってしまいます。

今回の騒動で豊洲市場の安全性に懸念を持たれているみなさんには、まず最初に現在騒がれていることは「そのレベルの話」であるという事実を知っていただきたいです。
マスコミの煽りやデマに乗って損をするのは、最終的には私達なのですから。



■ 謎の地下空間!?

一時期、「謎の地下空間」が世間を騒がせていましたが、建築に関わる人間からすると正直その表現自体が苦笑ものだったと思います。
建築的にみるとあのような大規模建物の下に人が入れる空間は絶対的に必要なものです。
盛土の上に作るか埋め込むかは別にして、特に新市場のような建物であるならば、設備更新やメンテ、また中長期的な使い方の変化に対応する必要があります。そのため、建物の下に人が入って作業ができる空間が必要になるからです。
一般的なビルにもマンションにも存在する「地下ピット」ですね。もしピット無しで豊洲市場を造っていたら、それこそ設計ミスの使えない施設になっていたことでしょう。
*ただ、あれだけの規模の「連続した空間」を設けることは確かに異例といえば異例です。地下ピットではあるのですが、現状、私たち建築関係者にとっても「地下空間」という表現が相応しい規模で形成されていました。重機を入れて作業をするといえばそうなのかもしれませんが、規模的に見ると確かに異例といえば異例。

まあ「予定通りの2.5m盛土がされていない」こと自体を問題として指摘するのであれば、実際には他にも指摘すべきポイントはいくらでもあります。例えば豊洲市場周辺の道路の下には厚さ約0.5mの砕石層など(基礎地盤)があります。
そのため、盛土も予定の2.5m厚は行われず、約2m程度に「薄く」なってしまっているはず。
仮にこれを地下空間と同じく扱うならば、「謎の地下砕石」と名づけて大騒ぎする必要がありそうですが・・・話題性の問題なのでしょうか。それとも都の模式図に道路の厚さが描かれているからOKなのか。
マスコミも煽りや大騒ぎが目的で、もはや問題が何なのか、自分達でもわからなくなってはいないかと心配になってきさえします。



■問題だったのは「安全性」ではなく情報共有と情報公開の精度

今回、問題だったのは、検出されたベンゼンでも食の安全性でもありません。

大きな問題の一つは、都の技術屋と事務方の連携と情報共有、コンセンサスの形成と、情報公開のしかた。決定経緯の不明確さ。
更にもう少し言うならば、一般向けの模式図の描き方(苦)

豊洲市場断面模式図(東京都)
出典:東京都


この点、都はしっかりと反省しなければいけません。

しかしこの模式図、相変わらず表現とスケール感がイマイチですよね。
これを見て私は護衛艦おおすみ接触事故の模式図(下図)を思い出してしまいました。

おおすみ航路(テレビ朝日)
おおすみ航路 テレビ朝日モーニングバード
暇つぶしにどうぞ http://ooguchib.blog.fc2.com/



技術屋側では早い段階から盛土を行わない予定で進めていたものが、事務方にうまく伝わらず、もしくは伝わっていたとしても大きな問題として扱われず、模式図も間違ったまま正しい情報が公開されず、移転直前になって指摘を受けて大騒ぎしている。
これは明らかに都側の失態です。
*その一方で、地下が空間になっていることを知っていたにもかかわらず、騒ぎになったのを見て「知らなかった」と驚いてみせた関係者が何人もいるはずなのですが。


そしてもう一つ、今回やっていることが
一番酷く問題があったと言えるのはマスコミの報道だと感じています。

「豊洲」というキーワードで種々の無用な不安を煽るばかりか、真偽を検証することもなくデタラメなことを言うコメンテーター(建築エコノミストなど)を動員して視聴率を稼ぎ、新聞に「環境基準の0.4倍のヒ素を検出」などと見出しを付ければ、一般の人は不安に思ってしまうでしょう。
もはや「一酸化二水素」のような話なのですが、微々たる可能性を大げさに叫んで不安を煽るばかりか、地下の柱が傾いているなどと全く火のないところにまで煙をたてて大騒ぎするマスコミには本当にあきれるばかり。
自作自演の風評被害はもう懲り懲りという、東日本大震災の報道であった反省を全く生かすことができなかったのは、非常に残念と言わざるを得ません。




■必要なのは「安全?」「安心?」

「安全」と「安心」

冷静に考えるとこの2つ、似ているようで全く別の概念です。

「安全」とは「許容できないリスク」を設定・線引きした上で、最終的には確率的・比較論的な概念だと気づきますが、「安心」はそうとばかりも言えません。
安心とは一義的には主観に基づいて形成されるものなので、危険性が高くても安心してしまうこともあれば、その逆もありえます。


私たちがより注視すべきは、「安全」なのでしょうか、それとも「安心」なのでしょうか。


私は何も「安全ならば安心は要らない」と言っているわけではありません。

ただ、「~の危険性があるかもしれない」「~に影響を及ぼす可能性がある」というような、リスクの評価を抜きに可能性という一面だけをピックアップした話(感情論)に流されず、現実的な基準で豊洲市場の環境を評価し、築地の現状と比べ、そのリスクが許容し得る範囲のものなのかどうかを判断する必要があるということです。
「ゼロリスク」は存在しないという現実を直視して、情報を発信する側と一緒に、情報を受け取る一般消費者側も賢くならなければなりません。
安心は正しい情報発信と、正しい評価から生まれるものだからです。




余談ですが、私は都内のいろいろな建物に入る機会があります。
古い建物も、新築の建物も、解体現場も建設途中も。
そもそも中規模以上の建物では、汚水(トイレの排水)や雑排水(トイレ以外の排水)を平気でピット(地下空間)にためておきます。
私が豊洲市場の地下空間を映像で見た時の最初の感想は「流石は新築未使用、綺麗だなあ」というものでした。
これはたまり水の水質云々ではなく、「見た目」の問題です。
食品を扱う建物のピット(地下空間)はお世辞にも綺麗とは言えないものが一般的ですし、ましてやその溜り水を豊洲市場のように飲用できるようなレベルで管理しようとしている建物は一つもありません。
そんなレベルで管理してもコストばかりがかかる反面、衛生面では何もプラスにならないからです。
皆さんのマンションのピット(地下空間)だって、都内の新聞社やテレビ局のピット(地下空間)だって、場所によっては「相当なこと」になっています。
ましてや築年数が古く、恒常的に「美味しいもの」を扱ってきた築地のピット(地下空間)なんて、きっと「とてつもないこと」になっていますよ。

しかし、私はそれが即使用を中止しなければならない程の問題だとは考えていません。

一定の基準をクリアした上で、実的な問題が出ないのであれば、それで良いと、そう思うのです。(築地の現状が一定の基準をクリアしているかと言われると、非常に怪しいとは思いますが。)


今回の豊洲市場の騒動は、拳を振り上げた都知事自身が冷静に、客観的に状況を分析し、「安全宣言」を出して早期に幕引きすることが都民にとってもベストだと思います。

マスコミは今も盛土をしなかった犯人探しに躍起になっているようですが、それとは別に、豊洲への市場移転をここまで延期して大きな損害を出してしまった責任をどうするのか、こちらも検証を行う必要があると思うのですが、みなさんいかがお考えでしょうか。

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  1. 2016/10/11(火) 07:00:47|
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